「かあさんの家」が示す道 〜せせらぎ終の住処プロジェクト3月報告〜

2024・3・20

グループリビング(GL)運営協議会という全国組織があって「coco湘南で10周年記念イベントが行われる」と聞きました。cocoせせらぎが長くお手本としてきたcoco湘南を 一度この目で見たいとずっと思っていたのと 基調講演「自分らしさを尊重しながら あたりまえの生活を送るための支援〜ホームホスピスの取り組みから〜」のタイトルに惹かれ 私は早速申し込みました。

3月3日 早起きして電車を乗り継いでたどり着いたcoco湘南 まわりは住宅に囲まれているけど 南向きの暖かい日差しのなか とてもアットホームな所でした。スクリーンショット 2024-04-04 160548

駅からcoco湘南の間に大きな公園があり 早咲きの桜が満開でした

 

講演なさった市原美穂さんは宮崎の一主婦であった50代のときに ”地域の中で生きてきたように地域の中で最期を迎える” ホームホスピスという新しい試み「かあさんの家」を立ち上げられ・・・それから20年 現在3ヶ所のホームホスピスを展開されている方。

”しっかりした理念とやさしい感性をもったかあさん”といった感じの 飾らない素敵な方でした。

市原さんは「日本で昔から家庭で死を迎えたように 人の死を自然な出来事としてとらえたい。医療技術の進歩・医療保険の充実に惑わされて もう治癒は望めないのに ”死に方の合意” ができない状態が多くないだろうか 過剰な医療を施さなければ 人の死は穏やかで自然なものになる」との信念のもと・・・。

病院を退院しても(一人暮らしだったり 家族が介護できなかったりして)家に帰ることができない人々のために 古い民家を借りうけて終の住処にし 5人の方を受け入れました。在宅ホスピスケアチームに来てもらい ご本人に了解をとりつつ まず薬を全部抜くことからはじめ これまでの生活リズムを聞きながら(たとえば朝は仏壇に手を合わせるなど)元の生活に戻った暮らしのなかで 最期まで生ききる居場所としました。

1日24時間 365日 多職種のチームで支えるケアは それは大変な心労だろうとお話を聞きながら思いましたが 在宅介護が難しくなれば施設へという今までの流れから 「かあさんの家」は新しいケアの形を指し示しました。”ホームホスピスは心落ち着くもう一つの自宅” と位置づけて実践がつづけられたことがわかります。

 

ホームホスピスが大切にしていること まず「住まい」。 今までの生活との連続性のある民家という空間の力を借りる。民家のいいところ それは音 匂い 景色 今までの暮らしの記憶をなるべく壊さない環境だということ。治療する場所でなく 居心地よく憩う場所 スタッフや他の人が共に友として伴走するとも暮らしの場所。年齢 病名 症状などの条件なしに 短期間でも 泊まりだけでも 食事だけでも利用できる 制度の枠を超えた場所。

一軒の民家に5人と決めたのは 一人一人への個別ケアができること。ナースコールなしで気配で感じることができる空間は30坪程度なので民家がいい 民家の中で小さなサインを送りあっている。ちゃぶ台をかこめる範囲も5人 5人だと気遣い合う関係ができ 訪ねてくる家族とも親密になるし スタッフとの同志関係ができてくる ということでした。しかし5人というのは決して効率的でなく 運営は常に厳しい とも。

ケアチームとしてかかりつけ医と訪問看護が入るが 医療が入るのはスポットであり 日々の生活リズム(食事・排泄・運動・睡眠・清潔・会話)を整えるのは介護の力。介護のなんの価値もなさそうにみえる当たり前のことこそ貴重で「なにかいつもと様子がちがうな」と気づく力と それを的確に医療につなげる専門性が潜んでいる。

「いつか来るその時まで自然に暮らし 幕を閉じる時はモニターなどを見るデジタルな方法でなく アナログで手を握って語りかけて 生活の音や匂い これまでの暮らしを最期までつづけながらその時を迎えることができる」「人の命は その時が来たら自分の力で亡くなっていく 看取りは医療ではなく 文化だと思う」と市原さんは言われます。ここで最期を迎えた方の息子さんの一言 「人の細胞は60兆個 人が死ぬって曖昧なのですね」。死をモニターで知るのなく 手を握りながら感じる・・・という昔からのこの国の文化。市原さんの深い哲学を学んだような気がしました。

 

基調講演を聞いたあと GL研究者からの発言 各GLからの報告がつづき 酒井理事長もcocoせせらぎ10年の概歴を映像を入れて報告されました。後半で私も入居者として今 皆で取り組んでいる「終の住処プロジェクト」について報告しました。

今まで暮らしてきた住み慣れた場所で 仲間がいる場所で最期を迎えたいという希望を私たちももっていること 昨年からの数回の勉強会でせせらぎが終の住処になり得るかもしれないというところまでこぎつけたこと 皆で情報を共有して そのような場面を想像して備えたいこと などなど。

しかし報告しながら先ほどの市原さんのお話を思いだし しっかりした理念とやさしいかあさんのような市原さんがいないcocoせせらぎで 日々変化する終末期の厳しい状況を自分としても迎えいれることができるんだろうか・・・不安な気持ちがよぎります。

食事のときにお近くで食べていらした市原さんと運営協議会長の小島さんにそれを話すと

「大丈夫 cocoせせらぎでできます がんばってみて!」とお二人とも励ましてくださいました。                         (入居者・土)