ピアノは友だち

2023.8.28

 

どこからかピアノの音が聞こえてくると・・・ぽっと明りが灯ったような気持ちになります。最近はよく街角や駅にピアノが置かれ それが放映されていて 私はとくに空港ピアノの番組が好きです。これから外国に発つ人や外国からやってきた人たちがせわしく行ききする空港 なかには難民としてたどり着いた人 亡命してきた人もいます。それぞれの事情を抱えて通過する瞬間の地点で あっ ピアノだ! と吸い寄せられるように近づいてきてピアノ椅子に座る人たち。

 

プロのピアニストもいます 独学で覚えたという人も 練習しはじめたばかりの小さい子どもも 80歳を超えた老人も弾きます。。。老若男女みんな「音楽に支えられている」「ピアノを弾くと元気がでる」「弾くことでリセットされる」「良いエネルギーをもらえる」「音楽は愛や幸せをくれる」「寂しさを忘れることができる」「言葉では言い尽くせない想いをのせる」と・・・さまざまピアノへの思いを聞いていると この楽器のもつ力を あらためて感じます。

先日のワルシャワ空港のピアノで だれかを見送りにきて70歳の男性が弾きました「自分は神経科の医者で 重病の子どもと向きあわなければならない。休憩時間にも病院のピアノを弾く。ピアノは脳に大きな影響を与える 脳をマッサージしてくれる存在だ」と。青空のようなきれいなブルーの上下を着た紳士だったけど 一生を病院で患者の抱える荷物をともに背負って過ごす彼には きっとピアノのマッサージが必要なんだなーと しばし遠いワルシャワの病院を想像しました。

 

私にとってピアノはなんだろう。うまく弾けるわけでもない 毎日弾かないでいられないほどでもない でもいつも近くにいてくれる大切な友だち なんでも話せて孤独を分かちあえる友だち・・・と言えるかもしれません。

ピアノを買ってもらえるような裕福な家ではなかったので 隣の家から響くピアノの音にいつもあこがれていました。中学の3年間 女学校の音楽の先生にピアノを習いましたが 自宅にピアノがない生徒は交代で小部屋で練習しました。念願の自分のピアノが手に入ったのは30代 “ 娘のピアノお稽古” のためにローンを組んで買ったけど本人は興味を示さず   ”お母さんのピアノ” になったときでした。黒ではなく外側は茶色の木目で 先生がヤマハ本社まで足を運んで選んでくださっただけあって とても響きのいいピアノ 保育の仕事をした20数年間 子どもたちの歌やリズム遊びの伴奏を練習するのに大活躍しました。家が手狭になり北海道に家を持ったときピアノを移し 大自然のなかで遠慮なく下手くそピアノを弾きました。三角屋根の吹き抜け木造の家だったので ピアノを弾くと家全体が楽器のように響き・・・真っ暗闇のなか月の光がこうこうと家の中まで照らす夜にはベートーベンの「月光」を 隣の友人が来ていっしょに歌うときも弾き 夫がいなくなってからの孤独をどれほど慰められたか。 cocoせせらぎに移ったときには電子ピアノに買い換えて・・・私は50年ずっと ピアノから離れずに暮らしてきました。

ピアノ曲(特にショパンの)を聞くとき 自分の一部が場所も時代も超えてどこか遠くへ連れていかれるような それが郷愁なのか憧れなのか・・・よくわからない感情にとらわれることがありました。ここじゃないどこかに自分はいるはずだ というような叶わない憧れの感情を “サウダージ” (日本語には訳せないポルトガル語)ということを 後になって知りました。

サウダージのピアノ・・・憧れのショパン曲を 一曲でいいからいつか弾けるようになりたいと「雨だれ」に挑戦しました。長い間かかってやっと完成 今年の3月cocoせせらぎのひな祭りの日に皆さんに聞いてもらいました 人前で弾いたのははじめて。

「月光 」「雨だれ」「バッハのプレリュード」大好きなこの3曲スクリーンショット 2023-08-31 153948

は忘れずに ずーっと弾いていたいな! でも

・一瞬頭がまっ白になって 今どこを弾いているのか楽譜を追えないことがある

・シナプスがプッツンして 脳の指令が指まで届かない

・手指が震えて 鍵盤がうまく押さえられない など 81歳の体に不具合がつぎつぎとやってきます。

願わくば ピアノという友だちと最後の日までいっしょにいられますように。

(入居者・土)