2024・6・10
老人の話だってよ 倍賞千恵子主演で評判になったし・・・とせせらぎ映画会で軽い気持ちでみんなで見た『plan75』 なんと! 老人の「喉元に突きつけられた匕首」みたいな怖い映画でした。私の体温はたしかに下がっていたようで 見終わって寒気がしました。
わかりにくいシーンがたくさんあったし 私に匕首を突きつけた作品 ぜひもう一度見なくては!と思っていたとき Netflixでやってることを知りました。しばらく繋がらなかったNetflixを娘が繋ぎなおしてくれたのを機に 見直してみました。
映画は一発の銃声から始まりました。銃を放った若者が暗い室内でつぶやきます「国のために死ぬことを厭わない国民なのだから これ以上社会の負担になりたくないだろう老人を殺す自分を 法廷で議論してくれればいい。私の勇気ある行動はきっと未来を明るくするだろう。」 やがて2発目の銃声が・・・若者が自らに向けたものでした。
その間ラジオからずっと静かなピアノ曲が流れ やがてアナウンサーがニュースを読みあげました。「今日 75歳以上の老人に死を選ぶ権利が与えられる『plan75法案』が 国会でようやくの可決を見ました。高齢者対策によって国の財政が圧迫され しわ寄せを受けた若者が老人を襲撃する事件があいついでいます。深刻化した高齢者問題の解決を求めた結果の 前例のない 世界でも注目される法案の可決です。」
法案が通ったこの国の近未来に 主人公のミチは節くれだった手 おぼつかない足取りでホテルのベッドメイクの仕事に励んでいました。やせた頬骨やシワの目だつあきらかに老女の顔 あの溌剌としたサクラちゃんしか思い浮かばない倍賞千恵子さんが高齢になったた今 ミチを懸命に演じていました。
ミチはやがて高齢を理由に仲間の従業員とともにホテルを解雇され 同時に借りていた団地も出なければならなくなり 友人が孤独死し 家族のいないミチの行きつく先はplan75しかありませんでした。
役所にplan75の説明を聞きにいくと 一人30分で相談にのってくれて「申請したら支度金が10万円出ますよ おいしいものを食べてもいいし 葬式代にしてもいいし・・・でも合葬にすれば無料ですよ 合葬なら一人でなくて寂しくないでしょ 申請にはもちろん健康診査もご家族の同意もいりません。今日お申し込みされますか?」でちょうど30分 さすがお役所・・・説明会場のテレビからは「死ぬときくらいは自分で決められたら安心だわー」と 明るい声でplan75政策のコマーシャルが流れていました。
役所の担当職員は 困窮した高齢者の集まりそうな炊き出し現場などで 申請書を持って声をかけていきます。申請があったら あとは専門業者が引きとり・・・一人一人に心理カウンセラーがついて 電話で一回15分まで話すことが許され 心配ごとや思い出話をやさしく聞いてもらえる。この電話カウンセリングは 途中で考えなおして申請をやめることのないように うまく誘導して最期を迎えてもらうためのもの。いよいよ最期の日にこぎつけると 業者は病院のような建物に申請者を集め たくさん並んだベッドに寝かせて 口をマスクで覆いplan75の薬剤を・・・処置がうまくいき死に至ったら 身につけていた貴重品を遺体から外す さながらアウシュビッツの光景。空き家整理・遺品整理・死後処理・遺体処理まで 一貫して業者が請け負う仕組みになっていました。
ミチはその日をどのように迎えたでしょう 最後の上寿司を頼んで 食べたら容器をきれいに洗いフキンで拭いて 家を出たその日。マスクをかけられて横になり ふと隣のベッドで男性が死んでいくのをカーテンの陰から見た途端 なぜかミチは起きあがったのです。ふらふらと建物から出て歩きだし いつの間にか薄暗い街並みを見おろす丘に立って かすれた声で歌をうたっていました 夕日だけがギラギラして。(ネタばれゴメンナサイ)
二度見て 細かいシーンがわかると再度ショック! 「国のために死ぬことを厭わない国民性」「死ぬ時くらい自分で決める」「若者の負担になりたくない老人」・・・そんなセリフがしばらくのあいだ私の頭の中をぐちゃぐちゃと回りました。生産性のなくなった者は切り捨てるという優生思想を この映画はわかりやすく警告してくれました。
仙台空襲の焼け野原で飢えて死にそうだった3歳の私は 日本国憲法の下でなんとか大きくなり 上京して働き 子どもを育て 夫を見送り・・・GDP一人当たり世界2位だった経済成長のお手伝いもほんの少し(笑)したつもり。82歳の今 私は生産性がない・・?
一生働いてきてくたくたの私たちは 桜が咲いたといっては喜び 「子ガモが生まれた! はて何羽生き残れるか」とヤキモキし 近くの手作りうどん屋の月一半額サービスの日を楽しみに待つ・・・そんなささやかな日々。天命がきたら 高額医療のお世話になぞならないで終わるつもり。それまでの一日一日をおだやかに過ごしたいだけなのに。
(入居者・土)
『plan75』はスピルバーグが絶賛し 第75回カンヌ映画祭正式上映 アカデミー賞国際長編映画部門の日本代表に選出されたそうです。
国際的映画評論サイトで「高齢化社会を巧みに反映し 見るものに深い印象を与える」と評され 世界20カ国以上での上映が決定とのこと。