カミュの『ペスト』 2020年4月1日
コロナ・コロナで3月が終わり 4月にはそろそろ終息かと思いきや ますます広がって私の方へ確実に近づいてきているようで おそろしいです。まさか私の人生でパンデミックがおきるとは・・・人生ってわからない。 20歳のころ『ペスト』を読んだときには 感染症は遠いアフリカ大陸の話と思っていました。
今回のパンデミックのおかげで ノーベル賞作家カミュのこの小説がふたたび読まれているとの報道があり なつかしく 本棚から出してきました。
フランスの植民地だったアルジェリアの小都市オラン おそろしい伝染病ペストがはやりはじめ終息するまでの一年間の町の人々のようすが 若い医師リウーの目をとおして描かれています。
緑のない白褐色一色の街並み そこにペストと猛暑がおそって 封鎖され 人々は血と膿にまみれて死んでいきます。医師 病院 治療院 収容所 墓場の数は足りず(これは今まさにイタリア フランスでおこっていて もしかして日本でも命の選別が行われるかもしれない瀬戸際です)
・・・カミュはオランの町でペストに苦しみもがく人々を 数人に焦点をあてて書いています。
恋人をフランスにのこしてきたためにオランからの脱出を何度もこころみるフランス人の記者 ペストは神の試練だと説く神父 小説を書きたいのにいまだに最初の一行目からすすめないでいる役所の勤め人 ペストが来るまえに自殺未遂をおこし自分だけでなく皆が苦しむペストがむしろこの町から去らないようにと望む男 遠くはなれた結核療養所にいるリウーの妻 そして襲ってきたペストにたいして医師としてもっている力すべてを尽くしてたたかうリウー。
リウーは 第二次世界大戦中ドイツナチズムとの戦いに身を投じたカミュ自身とも解釈されています。でもペストとの戦いは ナチズムばかりでなく 死 病 どんな人間もが内側にもっている悪徳 貧苦 戦争など 人生のどうしようもない理不尽さへの抵抗ともいえます。
天上の神に解決を求めようとする神父の「ペストは 不信仰なわれわれに神があたえた報いであり 神にゆるしを乞うて救われるほかはない」という言葉にたいして リウーは「あらんかぎりの力で死とたたかったほうがいい 神が黙している天上に目を向けたりしないで。ペストとたたかう唯一の方法は誠実さということ つまり自分の職務を果たすということだ。僕は聖書よりは心をひかれるのは 人間であるということだ」と言います。
『ペスト』は人生に3回読んだめずらしい本です。大きく迷ったときに読んで そのたびに「力が足りなくても誠実に自分の職務を果たせばいい 神に頼るのではなく」というリウーの言葉に励まされました。
地球全体にひろがった今回のコロナに人類がどのように立ち向かうのか カミュがどこかで見ている気がします・・・ (R)